ニックスがアウェイで連勝、シリーズは2勝0敗。しかも105-104の1点差。薄氷の上を渡り切った勝利、と言っていい試合でした。
ニックス対スパーズ(Knicks vs Spurs)のファイナル第2戦は、現地6/5にサンアントニオで行われ、ニックスが薄氷の1勝をもぎ取って2-0としました。
看板にしたい数字は、13です。プレーオフ連勝13。実はこれ、単一プレーオフでは史上2番目の長さなんです[1]。1位は、誰だと思いますか?
2017年のウォリアーズ、優勝した年の15連勝。あの「歴史的な強さ」に、今のニックスがあと2勝で並ぶところまで来ています。
おさらいから。会場ローテーションは第1・第2戦がサンアントニオ(SAS)、第3・第4戦がニューヨーク(NYK)。つまりニックスは、ファイナルの最初の2試合を"両方アウェイ"で戦って、両方勝った、ということになります。
これ、ファイナルの歴史で3回目です[2]。並ぶのは2チームだけ。
1993年のブルズ、Michael Jordan のチーム。そして1995年のロケッツ、Hakeem Olajuwon のチーム。どちらも、その年に優勝しています。
ここ、第1戦プレビューと第1戦リキャップを読んでくれた方には、ちょっと笑ってほしいんです。私たちはプレビューで「アウェイで第1戦を勝った側がそのまま優勝したのは1995年のロケッツ以来ない」と書きました。そしてG2の翌朝、当のニックスが、その1995ロケッツに並びました。歴史の縦軸に手をかけている、という言い方がいちばん近いと思います。
シリーズは球団史上初のファイナル2-0[3]。1973年の優勝以来、ニックスがファイナルの第2戦を終えて2-0で帰ってきたことは一度もありません。
第2戦の山場は第4クォーターでした。ラインスコアを見るとわかりやすいです。
| TEAM | 1Q | 2Q | 3Q | 4Q | F |
|---|---|---|---|---|---|
| NYK | 25 | 31 | 28 | 21 | 105 |
| SAS | 34 | 18 | 23 | 29 | 104 |
第1クォーターはスパーズが34-25で取りました。プレビューで「ホームで Wemby がリム周りを取り返せるか」と書きましたが、まさにそのスタート。Wembanyama が立ち上がりからリム周りで仕事をして、SAS が9点リードで第1クォーターを締めます。
ところがニックスは第2クォーター31-18、第3クォーター28-23と、ベンチ込みの総合力で押し返す。第4クォーターの中盤、ニックスは一時14点リードまで広げました。「もう試合は決まった」と思った人も多かったはずです。
ここから第4クォーターのスパーズが反撃。14-0のラン。Wembanyama の3点プレー(残り57秒)で104-102とついに逆転します。MSG じゃなくて AT&Tセンターの大歓声、ホームの空気が完全に SAS 側に振れた瞬間でした。
しかし最後の45秒で2つのことが起きます。1つは Brunson の同点バスケット。もう1つは、Wembanyama のターンオーバー。これが命取りでした。Brunson が残り9.5秒で決勝のフリースロー1本を沈め105-104。Wembanyama のラストショット(ジャンパー)は、リムに弾かれて落ちました。
ここが今日いちばん書きたいところです。
第1戦のプレビューで、私たちはスパーズの最大の鍵を「Wemby がリム周りを取り返せるか」だと書きました。第1戦は26点・6/21・3P 2/9・6ターンオーバー、しかも自分のシュート21本中ペイントは9本(普段は58%)。本来いちばん得意な"中"から押し出されていた、と整理しました。
第2戦のWemby。29点・FG 11/21・3P 2/6・FT 5/8・リバウンド9[4]。リム周りで仕事を取り返しています。シュート効率は52.4%。プレビューで指摘した「リム奪還」は、達成された側です。
それでもスパーズは1点差で負けました。ここに今シリーズの構造が出ています。
私はミニバスのコーチを3年やっていますが、子どもたちのチームでも全く同じ場面に出会います。エースが調子を落とした試合で勝てないのは普通。問題は、エースが復調した試合でも勝てないチームがある、ということ。これは、エース以外の4人が"エース不調を補う動き"のままで止まっていて、エース復調モードに切り替われていない、というケースが多いんです。
スパーズの第2戦は、まさにそれに近かったと思います。Wemby が戻った。Fox も20点で前戦の7点から完全復活。それでも105-104で落としたのは、ニックスの「仕組み」が、エース2人の復調を1点差ぶん上回ったからです。
ニックスの内訳がそれを物語ります。
| 選手 | PTS | REB | AST | 3P | FG |
|---|---|---|---|---|---|
| NEW YORK KNICKS | |||||
| 32K. Towns | 21 | 13 | 4 | 3/5 | 8/12 |
| 25M. Bridges | 20 | 6 | 6 | 4/6 | 8/13 |
| 11J. Brunson | 20 | 5 | 6 | 2/8 | 7/25 |
| 8O. Anunoby | 17 | 4 | 3 | 2/5 | 5/10 |
| SAN ANTONIO SPURS | |||||
| 1V. Wembanyama | 29 | 9 | 2 | 2/6 | 11/21 |
| 4D. Fox | 20 | 3 | 5 | 2/2 | 8/12 |
| 24D. Vassell | 14 | 9 | 5 | 3/7 | 4/9 |
| 5S. Castle | 14 | 4 | 4 | 2/4 | 5/14 |
Towns 21-13-4(3P 3/5)、Bridges 20点6リバウンド6アシスト(3P 4/6)、Brunson 20点・5スティール(FG 7/25と効率は下振れ)、Anunoby 17点。二桁得点4人で78点。Brunson の効率は明らかな下振れ(FG 28%)なのに、それを Towns・Bridges・Anunoby が補って、最終盤に Brunson が決勝点を運ぶ。「個人の谷を、仕組みが埋める」。これがニックスの強さの正体です。
スパーズも二桁が4人(Wemby 29/Fox 20/Vassell 14/Castle 14)。数だけ見れば同じです。でも違うのは、得点分布の"使い方"。Wemby と Fox の2人で49点、残り55点を9人で分けています。ニックスは Brunson の20点が「効率の悪い20」なのに、それでもチーム全体が機能した。スパーズは Wemby が良かったのに、その「良い29」を周りが結びつけきれなかった。
最後の Wemby のラストショットがリムに弾かれた、というのが象徴的でした。プレビューで「アウェイ先勝の優勝率は47%=薄氷」と書きました。その薄氷が、最後の1本でひび割れずに、ニックス側に渡った。Wembanyama がいちばん"リムから取り返したかった"中の一本だったはずです。
連勝13、と書くと「すごい」で止まりがちですが、中身を見るとさらに怖いです。
ニックスは今プレーオフ、平均得点差+19.4でファイナルに上がってきました。これはファイナル進出時点でプレーオフ史上最高クラス。要は「接戦を競り勝ってきた13連勝」ではなく、「ほとんどを大差で勝ってきた連勝」だったんです。
そこに、105-104の1点差が乗りました。"大差連勝"の終盤に、勝ち方の引き出しを1つ増やしたわけです。エースが効率悪い日にも、薄氷の1点差でも勝てる。種類の違う勝ち方がストックされていく、というのはシリーズ後半に効いてきます。
2017ウォリアーズの15連勝に並ぶには、あと2勝。確率の話だけしておくと、ファイナルで2-0から逆転されたのは過去39回中わずか4回(2016ウォリアーズ・2006マーベリックス等)。87%が2-0のチームがそのまま優勝しています。「平均的な勝者じゃない」と書いてきたニックスは、今、平均的な数字でいうと優勝率87%の側に立っています。
第3戦は現地6/7、ニューヨークの MSG です。ここから第3・第4戦は連続でホーム。
スパーズの修正点ははっきりしています。Wemby が良くてもチームが噛み合わなかった「個人の点を、5人の試合に結びつける作業」。具体的には、Wemby と Fox 以外の3人目(Vassell か Castle か Harper か)が、もう一段上の数字を出すこと。Castle 14、Vassell 14 ── このどこかが20点台に乗らないと、ニックスの"仕組み"を1点差で超えるのは難しいです。
ニックス側は「同じことをやり続ければいい」状況です。Brunson の効率が戻れば、シリーズはほぼ手中。1973年以来のファイナル制覇まで、あと2勝です。
ところで、両方アウェイで開幕2-0をした1993ブルズも1995ロケッツも、その後どうしたか。ブルズはホーム2連敗してから連勝して4-2。ロケッツはホームでもそのまま勝って4-0。シリーズの形はそれぞれ違いますが、結果は両方、優勝。歴史の縦軸は「アウェイ2連勝を取れた側が優勝してきた」と言っています。
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