「相手のオープン3Pが入らない」── このフレーズだけ聞くと、なんとなく運が良かっただけに聞こえるかもしれません。でも、ニックスのプレーオフ守備の中心にあるのは、まさにこの32.0%という数字なんです。
2026年6月3日(米国時間)から始まるNBAファイナルは、ニックス対スパーズ(Knicks vs Spurs)。スパーズが2014年以来12年ぶりにファイナルへ戻ってきた中で、ニックスは1999年以来のファイナル進出を果たしました。WCF Game 7のリキャップで「総合力のスパーズ vs 個別最適のサンダー」という構図を整理しましたが、今回掘り下げたいのは、その続きとして「ニックスは個人で守ってない、システムで守ってる」という話です。
今日の主役は「相手のWide-open 3許可率32.0%」[1]。リーグ通常値の37.8%を5.8ポイントも下回り、Tracking era の全カンファレンスファイナリスト中で最低水準。期待値より約40点少ない失点に換算される異常値です。これが「密度ある守備」なのか、「運の要素」なのか、ファイナルで何が見えるかまで、数字→なぜ→意味の3層で掘っていきます。
ニックス守備というと、これまでよく語られてきたのは「ペイントの圧」「フィジカルなマッチアップ」「OG Anunobyのオンボール完封」あたりだと思います。実際それも事実で、AnunobyはこのプレーオフでAll-Defensive 2nd Team級の守備を見せています。
ただ、プレーオフ14試合で12勝2敗(負けは両方2点差以内)、9勝が2桁差、累計点差+271(+19.4ppg)はファイナル進出時点で史上最大という規格外の結果は、目に見えるオンボール守備だけでは説明できないんです。何が起きているのか。一番面白いのが、相手の「オープンになった3P」が、なぜか入らない、という現象です。
普通、ディフェンスはチェイス(追い詰める)まではコントロールできても、相手がオープンで打った3Pの確率はコントロールできない、というのが定説。だからアナリティクス系の評価では「相手のオープン3許可率は基本リーグ平均に収束する」とされてきました。ニックスはそれを真っ向から否定する数字を出しています。
まず用語の整理から。「Wide-open 3」というのは、最も近いディフェンダーが6フィート(約1.8m)以上離れた状態で打たれた3Pのこと。要するに「打ち手側からすれば、ほぼフリー」と言える条件です。リーグ全体でWide-open 3は通常 37.8% で決まる──ここが基準。
ニックスはプレーオフでこれを32.0%に抑えています。差は5.8ポイント。一見小さく見えるかもしれませんが、Wide-open 3はシリーズを通して何百本も発生する試行回数の多いシュート。5.8ポイント低いということは、期待値より約40点少ない失点に換算できる、という規模感です。Tracking era(2013-14シーズン以降)の全カンファレンスファイナリスト中で最低。歴史的に見ても、これだけ抑え込んだチームは無いんです。
もうひとつ、別の物差しの数字もあります。相手のコーナー以外の3P(さっきのwide-openとは別の集計)を見ると、レギュラーシーズン非ガベージタイムの35.9%から、プレーオフでは29.8%まで落ちている[3]。逆にニックス自身のコーナー以外の3Pは、レギュラー35.5%からプレーオフ43.3%に跳ね上がっている。守備者が6フィート以上離れたwide-open 3(32.0%)とは定義の違う数字ですが、「相手の3Pが入らない」という現象を、別の角度からも裏づけている、ということです。
解釈①は「密度ある守備」。Mikal BridgesとOG Anunobyのウィングコンビが、ヘルプからのリカバリーが異常に速くて、相手の打点に直前に間に合う。つまり「6フィート以上離れている」とカウントされるWide-open 3でも、打ち手の視界には「今そこに迫ってきている影」があり、フォームが微妙に崩れる──というメカニズム。Anunobyのプレーオフ3P 48.3%、TS 72.4%という攻撃の数字も、この身体能力ベースの距離詰めの裏返しと言えます。
解釈②は「運の要素」。14試合という標本サイズはどうしても短期間の乖離(リーグ平均への回帰前)を含むので、5.8ポイントのギャップのいくらかは、たまたまであった可能性もある。アナリティクス系の慎重な見方は、これを否定はしません。
ここで少し私の話を挟ませてください。ミニバスのコーチを3年やっていると、子どもたちの試合でも「打たれているけど、オープンじゃない」ディフェンスというのは確かにあるんです。スタッツシート上は同じ"3Pシュート1本許した"でも、打ち手が「気持ちよく打てた」のか「あ、来てる」と感じながら打ったのかで、決定率は明らかに違う。これは指導現場の感覚として強く持っています。
そして「システムで守るチーム」と「個人で守るチーム」の違いもはっきり出ます。個人で守るチームは、エースが頑張った試合だけ勝てる。システムで守るチームは、誰が出ても同じ密度を保てる。3年見てきて、後者のほうが、長いシリーズでは間違いなく強い。ニックスはこの夏のファイナルで、その後者の極致をやろうとしているチームだと、私は思います。
そんなニックス守備に対して、相手のスパーズは何を持っているか。ここでWCF G7のリキャップで触れた「Champagnie」という名前が、もう一度浮上します。
G7でJulian Champagnieは20点・3P 6/9。3Pだけで18点積み上げた計算で、Xファクターとしての存在感を見せつけました。彼だけではなく、Stephon Castle・Victor Wembanyamaも、シリーズを通して3P脅威として機能してきています。Wembyは身長2m23cmから3Pを高確率で沈めるユニコーン、Castleはルーキーながらキャッチ&シュートの安定感を持つ。
そして、思い出してほしいのが、レギュラーシーズンのSAS vs NYK 第2戦(2025/12/31)。この試合、ニックスは132-134で敗れています。理由はChampagnie36点・11本3PM。ニックスがレギュラー全体では強かったこの2チームの3戦シリーズで、唯一落とした一戦が、3P脅威に火がついた時だった、というのは示唆的です。NBA Cup 12月決勝でも対戦している伏線もあり、両者は今シーズン4回目の本気の対峙ということになります。
つまりこのファイナルは、「3P型攻撃のSAS vs オープン3を入れさせないNYK守備」という、ちょっと珍しい矛盾と盾の構図。スパーズが3Pをどれだけ打ち、ニックスがそれをどれだけ「効果的なオープン3」から「気持ちよく打てないオープン3」に変えられるか。ここがシリーズの軸になります。
では、Game 1で最初に見るべき具体的なサインは何か。私が一番注目しているのは、「SASの最初のWide-open 3が入るか、外れるか」です。
最初の数本のオープン3が決まれば、解釈②(運の要素)に傾きます。スパーズ側の選手にとっては「打ち抜けるな」という感触が生まれ、シリーズ全体のアウトサイドの脅威が立ち上がる。逆に、最初の数本が「あれ、入らない」となれば、解釈①(密度ある守備)が証明されたことになります。ニックスのウィングローテーションが、レギュラー強敵相手にも通用するという、ファイナル規模での裏付けが取れる。
もう一つ見たいのが、Bridges/Anunobyのクローズアウトの速度。テレビ画面でも、彼らが「ヘルプからどれだけ早く戻ってきているか」は目視で分かります。打ち手の打点に対して0.3秒間に合えば、Wide-open 3はWide-open 3でなくなる。0.3秒遅ければ、SASは打ち放題になる。シリーズ全体のトーンを決める時間軸が、この最初の数プレーに詰まっています。
WCF G7で「個別最適のサンダー vs 総合力のスパーズ」を見たばかりですが、ファイナルでは「総合力のスパーズ vs システム守備のニックス」という新しい構図に変わる。スパーズの総合力が、ニックスのシステム守備の前でどこまで通用するか。32%という見えない強さが、ファイナルでも変わらず維持されるかどうか。Game 1のティップオフが、もう待ち遠しいです。
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