なぜあの選手だけ『スーパーマックス』?──NBAの一部選手にしか許されない特別ルール
同じ「Max契約」なのに、Jayson Tatumはセルティックスと5年$315M[1]。日本円でおよそ504億円です(概算1ドル160円・前回記事と同じ換算)。一方、同格に見えるスターでも、この金額には届かないケースがあります。
違いを生むのが、NBAのスーパーマックス契約と呼ばれる特別ルール。受賞歴のある一部の選手だけが、サラリーキャップの35%という一段高い天井まで契約できる仕組みです。
契約の仕組みシリーズ第2弾。今回は「なぜあの選手だけ?」の答えを、実例6人で整理します。
- 通常Maxの"さらに上"──本来キャップの30%までしか結べない7〜9年目の選手が、受賞歴を条件に35%まで契約できる特別枠です
- 対象は一部選手だけ──MVP・DPOY・オールNBAの受賞歴が必須。しかも原則、自分をドラフトしたチームとしか結べません
- チームには諸刃の剣──1人で年俸の大きな塊を占め続けるため、エプロン(超えると補強の自由が縛られる基準線)を圧迫し、放出の引き金になった例もあります
まず前提──「Max」は在籍年数で3段階
結論から。NBAのMax契約(最大年俸契約)の上限は、リーグ在籍年数で3段階に分かれます。基準はサラリーキャップ(チーム年俸の基準線)に対する割合です。
| リーグ在籍年数 | 上限(キャップの何%か) |
|---|---|
| 0〜6年目 | 25% |
| 7〜9年目 | 30% |
| 10年目以降 | 35% |
サラリーキャップやエプロンの基本は、前回の「契約の仕組み入門」に整理してあります。M=100万ドルの略記も前回と同じです。
注目してほしいのは真ん中の段。7〜9年目のスターは、本来30%止まりです。ところが、ある条件を満たすと35%へ"飛び級"できる。それがスーパーマックスの正体になります。
スーパーマックスの正体──35%への早回し
正式名称はDesignated Veteran Player Extension(指定ベテラン選手延長)。名前は仰々しいですが、中身は一言で言えます。「35%の先取り」です。
本来なら、7〜9年目の選手の上限は30%まで。そこに受賞歴という武器が加わると、10年目以降にしか届かないはずの35%を、ひと足早く使えるようになります。
資格の条件は3つ。すべてそろって初めて結べます。
① 在籍年数──リーグ7〜8年目で延長契約として結ぶのが基本形です(FAとして新規に結ぶ場合は8〜9年目)。
② チーム──自分をドラフトしたチームでしか結べません。例外は「ルーキー契約の最初の4シーズン以内にトレードされた先」だけ。どんなスターでも、途中で移籍したら対象外です。
③ 受賞歴──MVP(直近3シーズンのいずれかで受賞)。オールNBA選出(直近シーズン、または直近3シーズンで2回)。DPOY=最優秀守備選手賞(オールNBAと同じ条件)。このいずれかが必要です。
細かい注意も2つあります。受賞歴は署名の時点で持っていなければなりません(「来季MVPを取ったら」のような条件付き契約は不可)。そして署名後1年間はトレードできない決まりです。
実例で見る──スーパーマックスを勝ち取った6人
実際に結ばれたスーパーマックス契約を並べます。桁の違いを体感してください。
最新のSGAは4年$285M。年平均$71.25MはNBA史上最高です[2]。MVPとFinals MVPを両方持つ選手に、サンダーが35%の天井いっぱいで応えた契約でした。
「なぜあの選手だけ」の核心──資格は消える
スーパーマックスで本当に厳しい条件は、成績ではなく「どこに居続けたか」だ。
象徴がLuka Doncicです。2025年2月、マーベリックスからレイカーズへの電撃トレード。あの瞬間、Doncicは5年$345Mのスーパーマックス資格を失いました[3]。
成績が落ちたせいじゃないんです。理由は条件②。Doncicがスーパーマックスを結べる相手は、ルーキー時代から所属し続けたマーベリックスだけでした(ドラフト当夜のトレード加入=例外条件の範囲内)。移籍した時点で権利ごと消えます。レイカーズと結べるのは、30%の通常Maxまで。
逆に「資格はあるのに、あえて満額を取らなかった」選手もいます。Rudy Gobertは2020年12月、DPOY 2回の実績で$228Mの資格を持っていました。実際に結んだのは5年$205M。チームの編成余地を残すため、本人が減額を受け入れた形です。
チームにとっては諸刃の剣
選手には夢の契約。ではチーム側はどうか。ここは「エースを金額で確定できる安心」と「1人がキャップの35%を占め続ける重さ」の綱引きです。
重さが表に出た実例がKarl-Anthony Towns。スーパーマックスの年俸$49.4Mがウルブズ放出の一因となり、2024年9月にニックスへトレードされました。受け入れたニックス側も無傷ではなく、第2エプロンまで残り枠はわずか$30万[4]。たった1人の契約が、2チームの編成を同時に縛った格好です。
ライン超えの代償は税金だけにとどまりません。2024-25シーズンに第2エプロンを超えた3チーム(セルティックス・サンズ・ウルブズ)は、税金の合計が$300Mを超えました。さらに2032年のドラフト1巡目指名権も凍結[4]。セルティックスはTatumとJaylen Brownのスーパーマックス2枚持ち。エプロンの仕組みそのものは、前回記事のエプロンの章で詳しく解説しています。
次に結ぶのは誰だ──本命はEdwardsとMaxey
最後に少しだけ予想を。ここから先は確定情報ではなく、資格条件から逆算した読みです。
本命はAnthony Edwards(ウルブズ)とTyrese Maxey(76ers)の2人。ともに2020年ドラフト組で、2026-27が7年目にあたります。つまり2026-27にオールNBAへあと1回入れば、2027年オフに最短でスーパーマックス到達。Edwardsは2023-24・2024-25と2年連続でオールNBA 2nd。Maxeyは2025-26に3rd初選出。どちらも「直近3シーズンで2回」まで残り1つです[5]。
Edwardsにはひとつ注釈があります。2025-26は61試合の出場にとどまり、「65試合ルール」(オールNBA等の対象になるには原則65試合の出場が必要)で受賞資格ごと失いました。実力ではなく制度が数千万ドルを左右する──この記事で見てきた構図そのままです。
対抗はCade Cunningham(ピストンズ)。2025-26にオールNBA 1stへ躍進し、受賞カウントはすでに1つ確保。あと1回の選出で条件クリアという位置です。ただ2021年ドラフト組のため7年目は2027-28。署名は最短でも2028年オフと、時計が1年遅い。
Tyrese Haliburton(ペイサーズ)も資格の面では面白い存在。キングスからのトレードは2年目=「最初の4シーズン以内」だったので、Doncicと違って権利のチェーンは生きています。カギは大ケガ明けの2026-27に再選出できるかどうか。
ちなみにWembanyamaは2025-26にDPOYを獲っていますが、2023年ドラフト組なので7年目は2029-30。スーパーマックスの時計はまだだいぶ先になります。
今後の展望──「なぜエースを出したのか」が読める
スーパーマックスを知ると、オフシーズンのニュースの見え方が変わります。「なぜこのチームはあの選手を出したのか」。その裏に、35%の重さとエプロンの天井が透けて見えるようになるからです。
次に「◯◯がスーパーマックス資格を獲得」という見出しを見たら、チェックは2つだけ。① そのチームは本人をドラフトしたか。② 結んだ場合、エプロンまでの残り幅はいくらか。この2点で、残留か放出かの駆け引きまで読めます。
今日の持ち帰りは「35%」と「ドラフトしたチーム限定」。この2つを覚えておけば、次の大型契約の速報はもう他人事に見えないはず。
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出典
[2] Shai Gilgeous-Alexander スーパーマックス契約(4年$285M・2025年7月・MVP+Finals MVP・年平均$71.25M=NBA史上最高):NBA.com/Sportico
[3] Luka Doncic 2025年2月のマーベリックス→レイカーズ・トレードにより5年$345Mのスーパーマックス資格を喪失:CNBC/Bleacher Report
[4] Karl-Anthony Towns 年俸$49.4Mとウルブズ放出(2024年9月・ニックスのセカンドエプロン残枠$30万):ESPN/2024-25セカンドエプロン超過3チーム(BOS・PHX・MIN)の税金合計$300M超と2032年ドラフト1巡目指名権凍結:ESPN/Sports Business Classroom
[5] オールNBAチーム選出歴(2023-24/2024-25/2025-26)・Edwardsの65試合ルール該当:NBA.com/Hoops Rumors
制度ルール(25%/30%/35%・資格条件・署名後1年トレード不可):Hoops Rumors Glossary/CBA Guide
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