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データ分析

+17.3が映すスパーズの強さの源 ── スパーズ対ニックス Finals プレビュー、Wembanyamaが出ると別のチームになる

公開日2026.06.02編集部 · 7 min
データ分析NO. 04
+17.3
WEMBY ON · OFF -0.3

WCF Game 7のリキャップで、僕は「総合力のスパーズ」と書きました。二桁得点者7人で勝った、あの試合の印象そのままに。でも、ファイナルを前にスパーズのプレーオフ18試合を数字で洗い直してみたら、ちょっと違う顔が見えてきたんです。

2026年6月3日(米国時間)開幕のNBAファイナルは、スパーズ対ニックス(Spurs vs Knicks)。スパーズは2014年の優勝以来、12年ぶりのファイナルです。前回のニックス戦力分析では「誰が出ても相手のオープン3を32%に抑えるシステム守備」を取り上げましたが、今日はその裏返し。スパーズの強さが、Victor Wembanyama 一人にどれだけ集中しているか、という話です。

今日の主役は「+17.3[1]。Wembyがコートにいる時の、チームのネットレーティング(攻守を合わせた、100回攻めて何点上回るかの指標)です。彼がベンチに下がると、これが-0.3まで落ちる。つまりスパーズは、Wembyが出ている時間は+17.3の強豪、いない時間はほぼ五分のチーム。「別のチームになる」とは、こういう意味なんです。

この記事のポイント
  • +17.3 → -0.3 ── Wembyが出るか下がるかで、チームの強さが激変。1人への依存度はリーグ最大級
  • ニックスとは正反対 ── ニックス「誰が出ても32%=システム」、スパーズ「Wemby一人で+17.3=個人」
  • Game 1の見どころ ── Wembyがベンチに下がる数分、ニックスがどこまで突き放すか。そして中2日 vs 中9日の休養差

「総合力」の正体を、数字で洗い直す

WCFのスパーズは確かに総合力で勝ちました。G7はCastle・Fox・Harper・Johnson・Vassell・Champagnie・Wembyと二桁得点者が7人。誰か一人が止められても、別の誰かが返す。あの戦い方は本物でした。

ただ、シリーズ単位ではなくプレーオフ18試合全体(1回戦4-1、準決勝4-2、WCF4-3)で均してみると、見え方が変わります。チーム全体のネットレーティングは+10.4。これはニックスの+6.5を上回る立派な数字です。でも、その+10.4がどの時間帯に生まれているかを分けると、ほぼ全部がWembyの出場中に集中している。これが「+17.3 / -0.3」の意味です。

Wembyは今シーズン、史上初の満票DPOY(最優秀守備選手・100票すべてが1位票)に選ばれました[2]。22歳での受賞は史上最年少。WCFでもMVP(Magic Johnson Trophy)を獲っています。チームの数字が彼に集中するのは、ある意味で当然なんです。

データブロック① ── SAS 守備とチームの基本数字(プレーオフ)

■ プレーオフ成績:12勝6敗(1R 4-1 / 準決勝 4-2 / WCF 4-3)
■ NetRtg(PO全体):+10.4(ニックスは+6.5)
■ ORtg:116.5 / DRtg:106.1
Wemby ON時 NetRtg:+17.3 / OFF時:-0.3
■ FG%:46.9% / 3P%:36.5%
2014年(優勝)以来 12年ぶりファイナル(西地区決勝は2017年以来)
■ WCF MVP:Wembanyama(Magic Johnson Trophy)
■ Wemby:史上初の満票DPOY・史上最年少22歳
■ Castle:18試合すべて先発・19.2pts / 6.7ast
■ 先発の顔ぶれが固定(Wemby・Castle・Champagnie・Vassell・Fox)

+17.3と-0.3の読み方──「エースが出てる時だけ強い」問題

ネットレーティングの「ON / OFF」は、その選手がコートにいる時といない時で、チームがどれだけ変わるかを見る数字です。スパーズのWembyは、ここの落差が極端に大きい。

もっと極端なのがWCFの7試合だけを切り出した数字で、Wembyがいる時は+6.1、いない時は-60.3まで落ちています。さすがにこれはWembyがベンチに下がる時間自体が短くて、たまたま悪い数分が混じった影響も大きいので、額面通りには受け取れません。それでも「Wembyが座ると一気に苦しくなる」傾向は、プレーオフ全体の-0.3とも一致しています。

ここで少し僕の話を。ミニバスのコーチを3年やっていると、「エースが出ている時間だけ強いチーム」というのを、毎年のように見ます。その子がコートにいる5分は別世界、ベンチに下がった3分で一気に追いつかれる。子どもの試合でも、本当にはっきり出る現象なんです。

スパーズの「+17.3 → -0.3」は、まさにこれのNBA版。Wembyという規格外の選手が一人いるから+17.3まで行くけれど、彼が休む時間は別のチームになる。これは弱点でもあり、同時に「Wembyを出し続ければ勝てる」というシンプルな強みでもあるんです。

対して前回見たニックスは、誰が出ても相手のオープン3を32%に抑える。エース依存じゃなくて、システム依存。3年コーチをやってきた実感として、長いシリーズで本当に怖いのは後者です。でも、Wembyほどの選手がいるなら、前者のやり方でも7試合を勝ち切れるかもしれない。「個人で+17.3のスパーズ」と「システムで32%のニックス」、どちらの設計が7戦を制するか。ここがファイナルの一番面白いところだと思っています。

データブロック② ── Wemby 個人 と ニックスとの対比

Wemby(PO全体):約23pts / 約11reb / 3.5blk超 / FG 51% / 3P 37%
■ Wemby(WCF・MVP):27pts / 11reb / 2.7blk / 3P 40%
■ Wemby G1 vs MIN:12ブロック=プレーオフ単一試合 史上最多[3](従来記録は10本)
■ ─────── ニックスとの対比 ───────
■ PO NetRtg:SAS +10.4 / NYK +6.5
■ 守備の型:SAS「Wemby個人」 / NYK「システム=オープン3を32%に」
■ プレーオフ試合数:SAS 18 / NYK 14(4試合多く戦った)
■ Finals G1までの休養:SAS 中2日 / NYK 中9日

Wembyの守備は、数字でも別格です。準決勝Game 1では1試合12ブロック。これはプレーオフの単一試合では史上最多で、長年の記録だった10本(Mark Eaton・Hakeem Olajuwon・Andrew Bynum)を更新しました。リムを守るという一点で、彼はシリーズの設計図を一人で書き換えられる選手なんです。

もう一つの顔──Champagnie の3P

とはいえ、スパーズはWembyだけのチームではありません。ファイナルでニックスの「オープン3を打たせない守備」とぶつかった時、鍵を握るのがJulian Champagnieです。

彼のプレーオフのシュートは、なんと78%が3P。しかもキャッチ&シュート(味方のパスを受けてすぐ打つ形)に限ると成功率は約50%。完全に「3Pを打って当てる」専門職です。WCF G7では20点のうち18点が3P(3P 6/9)と爆発しました。

思い出してほしいのが、レギュラーシーズンの大晦日(2025/12/31)の直接対決。スパーズが134-132で競り勝ったこの試合は、Champagnieがキャリアハイ36点・3P 11本(フランチャイズ記録)で撃ち合いを制したものでした(ただしWembyは脚を痛めて24分で退場しています)。一方、12月のNBAカップ決勝ではニックスが124-113でスパーズを下して優勝。今シーズンの直接対決は痛み分けで、ニックスはWemby攻略の経験も持っています。

つまりこのファイナルは、「オープン3を打たせないニックス守備 vs オープン3を打って当てるスパーズ(特にChampagnie)」という、矛と盾の構図でもあります。前回のニックス分析で「相手の3Pが入らない32%」を見ましたが、その盾を最初に叩くのが、12本決めた実績のあるChampagnieの3P、というわけです。

Finals G1 で見るべきサイン

では、Game 1で具体的に何を見るか。一番は「Wembyがベンチに下がる数分間のスコア」です。+17.3 / -0.3 が本物なら、彼が休む時間にニックスが点差を一気に詰める、あるいは突き放す場面が必ず来る。そこでスパーズの控え陣が踏ん張れるかが、シリーズ全体のトーンを決めます。

二つ目は休養差。スパーズはG7まで7試合フルに戦って中2日、ニックスはスイープで中9日。Wembyの出場時間を支えるスタミナが、わずか2日の休みでどこまで戻るか。第4クォーターのWembyの動きの重さは、テレビ越しでも分かるはずです。

三つ目はChampagnieの最初の3P。これが入れば、ニックスの32%守備に最初のヒビが入る。外れ続ければ、スパーズは攻撃をWemby一人に頼らざるを得なくなり、+17.3を支える「もう一つの顔」が消えます。

もう一つ、このシリーズには時代の文脈もあります。以前の記事でも触れましたが、NBAは2018-19シーズンを最後に、連覇チームが生まれていません。今年も2025年王者のサンダーがWCFでこのスパーズに倒れ、連覇の壁は誰も超えられないままです。残ったのは12年ぶりのスパーズと、27年ぶりのニックス。どちらが勝っても「久しぶりの顔」の王者が生まれる。Wembyひとりに+17.3を託すスパーズの戦い方が、この“連覇なき時代”に新しい起点を作れるのか。そんな目で見ると、面白さが増します。

+17.3と-0.3。この2つの数字を頭の片隅に置いて、Wembyがベンチに下がる時間帯を眺めてみてください。スパーズというチームの設計図が、そこに全部出ます。ティップオフは、もうすぐです。

出典

[1] Wemby ON時 NetRtg +17.3/OFF時 -0.3(プレーオフ全体)・WCF限定 +6.1/-60.3:ESPN「The on-court trends defining the 2026 NBA playoffs」(Zach Kram・2026-05-26)。元データ GeniusIQ(NBA公式トラッキング)
[2] 史上初の満票DPOY(100票全て1位票)・史上最年少22歳:ESPN/CBS Sports(2026 DPOY発表報道・2ソース一致)
[3] Wemby 12ブロック=プレーオフ単一試合 史上最多(従来記録10本:Eaton 1985・Olajuwon 1990・Bynum 2012):NBA.com
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